スタッド溶接とクリンチングファスナーの関係


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Q&A まとめ

スタッド溶接とクリンチングファスナーの関係

板金製品への「ねじ」の取り付け方には、 概ね4つの方法があります。       

① バーリングねじ
② 溶接ナット
③ クリンチング
④ スタッド溶接


①バーリングねじは、タレパン工程の中で 特殊ツールを用いて行う事が出来るというメリットがありますが、 多くのねじ山を切れないなどの問題点があります。

②溶接ナットは、比較的大きなナットをアーク溶接で板に取り付けるものですが、 生産性が低いという点と小さな「ねじ」には適さないという問題点があります。

共に、板に「めねじ」を取り付ける事となるので、 「おねじ」を取り付けたい場合や、繰り返し使用される場合 などは、 ③クリンチングファスナーを用いるか④スタッド溶接を用いるかを選択する事となります。 また生産数が多い場合 にも、 ①バーリングねじや②溶接ナットよりも、 ③クリンチングファスナーか④スタッド溶接が使われる事が多くなります。

過去30年間、小型の電気製品の市場において、 スタッド溶接は『 溶接離れようせつばなれ 』という考え方によって、 クリンチングファスナーに、その市場を奪われる傾向にありました。 しかし、両者には一長一短があり、本来は共存の道を進むべき内容です。 スタッド溶接が軽視される傾向にあった理由は、板金屋さんの溶接に対する知識不足であったはずです。 また「 磁気吹きじきぶき 」の存在は、その問題点をさらに大きなものに変えていました。 今回、 磁界じかい リング式(SRM)スタッド 溶接工法ようせつこうほう が紹介された事によって その関係が大きく変化します。

以下には、 磁界リング式(SRM)スタッド溶接工法 が使えるという事を前提に、 スタッド溶接工法をクリンチングファスナーと比較考察する事とします。

クリンチングファスナーとスタッド溶接の比較

強度面 ⇒ クリンチングファスナーよりもスタッド溶接は高強度で接合できる
スタッド 溶接工法ようせつこうほう は、溶接の一種です。 溶接は2つの材料が熱によって溶融し、溶け合う事により 接合せつごう が行われます。 これに対して、クリンチングファスナーは、板側の僅かな 部位ぶい塑性変形そせいへんけい (すえ込み)し、 クリンチングファスナーに食い込みます。 食い込むだけのクリンチングファスナーでは、溶け合うスタッド溶接程の 接合強度せつごうきょうど を得る事は出来ません。 大ざっぱに考えてクリンチングファスナーは、スタッド溶接の1/3以下の強度しか得られません。

つまり使われる場所や作用する力によって両者のどちらを使うべきかの最初の選択肢が生まれます。 もしも、強度的な心配を重視するのであれば、スタッド溶接を使うしかありません。 しかし、クリンチングファスナーの 接合強度せつごうきょうど でも、ほとんどの場合は十分です。 と言いますのは、クリンチングファスナーが外れるような力が加わる前に、 周囲の板金部品が変形してしまうからです。 クリンチングファスナーが外れる前に、製品は既にお釈迦になるわけですから、 クリンチングファスナーの 接合強度せつごうきょうど が弱いと言っても、その影響を受ける事は、ほとんど無いのです。

軽量だとクリンチングファスナーが優位だが、 板厚が増し、重量が増すとスタッド溶接が優位になるという傾向もあるというものの、 ほとんどの場合は、 加工を行う板金屋さんの設備や、過去の生産の実績次第で、どちらを使うかが決まっています。

位置決め精度 ⇒ 手作業による位置決めが多いが、それがメリットでもある
クリンチングファスナーは、タレパンで下穴を空け、 そこにクリンチングファスナーを 圧入あつにゅう します。  なので、位置精度はタレパンに依存し全く問題はありません。  しかし、スタッド溶接は、多くの場合ガバリやポンチで作業員が位置決めをする事になります。 スタッド溶接は、XYテーブルを持つスタッド溶接ロボットを用いない限り、 位置決め精度はクリンチングファスナーを下回ります。 これは、投資を行えば解決する問題ですが、 簡易的な装置でスタッド溶接が出来るという点が、大きなメリットとなっている場合も多いので、 スタッド溶接は位置決め精度が良くないという台詞は乱暴です。 スタッド溶接は、位置決め精度が良くない状態で使われる事が多いというだけです。

熱歪ねつひずみ  ⇒ これまでのCDスタッド溶接よりは大きいが、気にならない事が多い
クリンチングファスナーの圧入は、冷間(常温の事)で行われる 塑性加工そせいかこう ですので、 熱歪ねつひずみ は発生しません。しかし、スタッド溶接は溶接である以上、 少なからず 熱歪ねつひずみ が発生します。 スタッド溶接は、通電時間が極めて短いアーク溶接の一種類とも言えます。 板の溶接面側の円形接合面のみが、極めて短い時間加熱され、その後、急冷されます。 アーク溶接と比較すれば、熱歪は“ほとんど発生しない”と言っても過言ではありませんが、 冷間れいかん (常温)の 塑性加工そせいかこう と比較すれば、 熱歪ねつひずみ は“十分に発生する”という事になります。 磁界リング式(SRM)スタッド溶接工法においては、 アークが安定するまでに、0.1秒程度の時間が必要です。  短い時間のように思われるやもしれませんが、 これまでのCDスタッド溶接では、0.001~0.003秒程度でしたから、これは実に長い時間です。 1箇所のスタッド溶接では、問題になる事はありませんが、 密集してスタッド溶接を行った場合の 熱歪ねつひずみ による影響は、 まだ、これから経験を積まねばならない内容となります。

裏面焼けうらめんやけ  ⇒ これまでのCDスタッド溶接よりは大きいが、気にならない事が多い
熱歪ねつひずみ の内容と似た内容となります。 磁界じかい リング式(SRM)スタッド 溶接工法ようせつこうほう においては、 アークが安定するまでに、0.1秒程度の時間が必要なので、 裏面の温度も上昇しがちになります。 これまでのCDスタッド溶接と比較して、裏面焼け発生頻度は高くなります。 勿論、クリンチングファスナーでは裏面焼けなど発生の余地がありません。 裏面焼けは、磁界リング式(SRM)スタッド溶接工法の唯一の弱点かも知れません。  但し、裏面焼けが発生しても、それを取る作業は比較的簡単であったり、 その上から表面処理を行うので気にならないという事も多いようです。

設備費 ⇒ クリンチングファスナーの圧入設備よりも安価
クリンチングファスナーの普及を考える時、最大の障害となるのは設備費です。 クリンチングファスナーの圧入は、僅か100分の1mmの板厚変化の影響を受けます。 そのために、インサーション・マシンがどうしても必要となってしまいます。 この投資を行わずに、プレス機械に金型を付けて圧入を行った金属製品製造業では、 お釈迦の山が出来てしまいました。 インサーション・マシンは、500万円~1000万円の設備投資となります。 これに対して、磁界リング式(SRM)スタッド溶接工法が可能となる設備を投資するのは、 その半分の費用で十分でしょう。


ここで、重要な事を申し述べさせて頂きます。もしも、 磁界じかい リング式(SRM)スタッド 溶接工法ようせつこうほう が使えないとしたら、上記の比較はナンセンスです。 何故ならば、 この工法によって、 スタッド溶接は、初めてクリンチングファスナーのように幅広いアプリケーションでも 使用できるようになったからです。 磁界じかい リング式(SRM)スタッド 溶接工法ようせつこうほう 登場前の状況では、 スタッド溶接は、僅か1/3程度のアプリケーションにしか 適用できない工法に過ぎず、 Before SRMビフォアー After SRMアフター は、全く異なった世界なのです。


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