8.トラブル対策3 クリンチング・ファスナー『
磁性
を持つ』 と 『
磁力
を帯びる』の勘違い
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ステンレスには、磁石につくものとつかないものがあります。
鉄にクロムを10.5%以上混ぜたステンレス(400系ステンレス)は磁石につきますが、
鉄にクロム18%とニッケル8%を混ぜたステンレス(300系ステンレス)は磁石につきません。
通常、ステンレス製のクリンチング・ファスナーは、300系ステンレスで磁石につきません。
ただし、厳しい曲げや
絞
りなどの
冷間
加工を加えると加工部分の金属組織がマルテンサイトという金属組織に変形し、
その結果、若干ではありますが、磁性を持つようになります。
しかし、
磁性を持つということは磁石につくということであり、磁力を帯びるということではありません。
鉄の釘が磁石につくところを想像して下さい。
磁石は、磁力を帯びていますが、鉄の釘は磁力を帯びてはおらず磁石につくだけです。
『磁性を持つ』=鉄と同じ と 『磁力を帯びる』=磁石と同じ
を勘違いしておられるケースが多々あるようです。
『磁性を持つ』モノは、電子機器周辺にあった方が好ましい
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磁性を持たないクリンチング・ファスナーを、提供して欲しいという要望を承る事があるのですが、
この時に、
『磁性を持つ』と『磁力を帯びる』の勘違いをされている場合があります。
『磁性を持つ』モノはむしろ、電子機器周辺にあった方が好ましいのです。
『磁性を持つ』鉄製の板金部品は、それと同時に電波を通しません。
特に、医療機器では、
EMI
対策と言って、電子回路を
電磁波
から
遮蔽
しないといけない場合が多いのです。
具体的には、病院の医療用電子機器や心臓ペースメーカーが、携帯電話などから発せられる電波によって
誤動作しないようにせねばなりません。
『磁力を帯びる』モノは、電子機器周辺にあってはいけない
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これに対して、電子機器の周辺部品には『磁力を帯びる』モノがあってはなりません。
例えば、あなたが持っている、スマホやゲーム機の傍に、磁石があると、
それらは壊れてしまう場合があります。
これは、全ての電子機器で共通です。
但し、例外的に、鉄のように磁性を持ったものは使用してはいけないという場合もあります。
CT室のような特殊な場所では、CTから発せられる磁力線に影響を与える部品の使用が禁じられていて、
その周囲は、ステンレスSUS300系やプラスチックやアルミばかりで、鉄製品は一切無いという場合もあります。
しかし、このニーズは極めてレアなケースのはずです。
鉄のクリンチング・ファスナーは、強い磁石に近付けたりしない限りは
『磁力を帯びる』事はありません。
ステンレスとなると、こちらは、さらにありえません。
上記の内容は、設計者の皆さんが板金屋さんを経由して、
クリンチング・ファスナー・メーカーに話が届いた時には、
ハチャメチャな伝言ゲームになってしまっている場合があります。
このように勘違いが発生し易い内容においては、
仮に板金屋さんが正しく伝えておられても、
ファスナー・メーカー側では、
失礼な事とは知りながら、どうしても板金屋さんの発言に
疑いを持ってしまいます。
板金屋さんや商社さんに対して “ 調べておいてね ” といった
依頼をされるのは、他の内容であれば、ほとんど問題は無いのですが、
磁性の話に関しては、上記のような事が懸念される内容だけに非常に相性が悪いのです。
このような理由から、直接、
クリンチング・ファスナー・メーカーにお問い合わせ頂かない限り、
設計者の皆さんにご納得頂ける回答が難しい状況にあります。
従いまして、お互いの為に、
お手数でも、直接のお問い合わせを頂いた方が話が早いものと思われます。